【読書・人文書・世界史】イブン・ジュバイルの旅行記 (講談社学術文庫) イブン・ジュバイル (著)
書記イブン・ジュバイルのメッカ巡礼記。巡礼の最中目にしたものの記述で面白かったのは、エジプトの「ピラミッド」と「老婆の城壁」に関する箇所。
ピラミッドについては、その正体を「コーランに登場する古代のアラブの部族長とその子孫の墓」と考える者がいたらしい。 これは、コーランの記述と関連づけて古代の遺跡を解釈しようという試みで興味深い。
また、現代でもなおその正体について異論があるピラミッドについて、「墓」という解釈がどこから生まれたのかも気になる。
「老婆の城壁」は、ナイルの東岸に 200km 近くも続く城壁であり、「諸道路と諸王国の書」なる書物(なんと魅惑的な名前の書物でしょう)に記された女魔術師こそが「老婆」なのではないかと著者は推測しているという。
他にもメッカの羊肉が地上で最高の食べ物であるとか、カリフのお膝元バグダードの住民は傲慢であるとか(いつの時代も都会人は偉そうなんですね)、当時の風俗に注目して読んでも面白い。
【読書・国内文学】カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫) 安部公房 (著)
「砂の女」の原型となった「チチンデラ ヤパナ」や、方舟さくら丸」のプロローグ的短編「ユープケッチャ」などを含む短編集。
印象的だったのは、結婚相談で出会った男が、太古の地球を再現した閉鎖空間内で子どもを養っている…という「子供部屋」と、娘との関係性を修復するために手練の老人にそそのかされて保険金詐取に手を染める男が主人公の「手段」。
前者での細かい発見として、安部作品でいわゆるお嬢様言葉を使う登場人物を見たのは初めてかもしれない(「箱男」の看護婦なんかはもうちょっとくだけてた気がする)。
【読書・人文書】暴力の人類史 上 スティーブン・ピンカー (著)
【読書・エッセイ】やがて哀しき外国語 (講談社文庫) 村上春樹 (著)
著者には、もっと超然として必然的な選択の結果としての人生を送っている印象を持っていた。 だがこの本の中で語られた内容によると、著者はこれまで度々行く手に困難が予想される選択肢を選び取っているばかりか、作家人生のはじまりはまったくの僥倖だと考えているようで、少し意外に感じた。
作品の執筆は若い頃の肉体労働の生活で身につけた身体感覚に基づいて行なっているという内容と、海外生活は不自由な外国人にすぎない自分、裸のままの自分を感じられるという内容が印象に残った。
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