イタズラ電話

海外・国内文学、人文、自然科学などのジャンルを中心とした読書の感想を綴ります。光文社古典新訳文庫、平凡社ライブラリー、講談社文庫、ちくま学芸文庫などが多めです。時たま、古墳散策とタイピングについての記事も。

読書

ホモ・デウス 下:テクノロジーとサピエンスの未来 ユヴァル・ノア・ハラリ(著)

人間至上主義に変わる新たな宗教はデータ至上主義。 人間の特権であった意識=個人の経験が至上の価値観の源だった時代が終わり、自分以上に自分をよく知るデータフローが、あらゆる選択にベストな選択肢を提示する時代が訪れる。 個人の意志決定の価値は失…

ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来 ユヴァル・ノア・ハラリ(著)

現代で最も広く受け容れられている宗教「人間至上主義」は、如何にして誕生し、自明の理として共有されるに至ったかを探る上巻。 人類が地上で覇権を握ったのは、多くの人間が幻想を共有する共同主観的な視野を獲得したことにより、柔軟に協調できるようにな…

【翻訳記事】ギルガメシュ叙事詩の新たな断章が発見される

以下の記事を翻訳した。 www.livescience.com とある歴史博物館と密輸業者の間の取引によって、史上最も有名な物語のひとつ「ギルガメシュ叙事詩」に新たな見識がもたらされた。新たに発見された一枚の粘土板が、この古代メソポタミアの叙事詩のかつて知られ…

【読書・人文書】翻訳地獄へようこそ, 宮脇孝雄(著)

ロンドンのホテルで 、ボ ーイ長がアメリカ人の客にいった 。 「リフトはまもなくまいりますので 、お待ちください 」するとアメリカ人の客はいった 。 「リフト ?あ 、エレベ ータ ーのこと 。あれはね 、アメリカで発明された物なんだから 、エレベ ータ …

【読書・国内文学】消滅世界 (河出文庫) 村田沙耶香 (著)

「婚姻関係」と「恋愛関係」が完全に分離した世界。 そんな世界に暮らす女性「雨音」が主人公の物語である。 作中世界では、戦時中の若年男性人口の減少を受けて開発された技術により、生身の人間同士の「交尾」ではなく、人工授精による出産がマジョリティ…

【読書・海外文学】絶望 (光文社古典新訳文庫), ウラジーミル・ナボコフ, 貝澤哉

こんなにうれしいのは、だれかをペテンにかけた場合なんだな。たったいまある人物をみごとにペテンにかけたところだが、だれかって? 読者よ、鏡をよくよく覗いてみるがいいさ、なにせおまえさんは鏡に目がないときてるんだからな。 ビジネスマンのゲルマン…

【読書・一般向け技術書】ブロックチェーン入門(ベスト新書) 森川 夢佑斗 (著)

米アクセンチュアによれば、分散型台帳技術(distibuted ledgers)はビジネス成功に欠かせない新たなテクノロジートレンド「DARQ」の一角とされている。 https://www.accenture.com/jp-ja/insights/technology/technology-trends-2019 今回ご紹介するのは、…

【読書・国内文学】顔のない裸体たち (新潮文庫) 平野啓一郎 (著)

あまり物事に思い悩まず、周囲に流されるように人生を送ってきた中学教師の女性「ミッキー」と、鬱屈した感情を抱える典型的なダメ男「ミッチー」の間の、ねじれた性的主従関係を描いた物語。 誰の記憶にも残らなかったであろう女性が、センセーショナルな事…

【読書・国内文学・ホラー・SF】エッジ 上 (角川ホラー文庫) 鈴木 光司 (著)

「リング」シリーズでおなじみの著者による、2013年のシャーリイ・ジャクスン賞受賞作。 日本各地で発生する大量失踪事件について、ルポライター栗山冴子とテレビ局ディレクター羽柴が事件の真相に迫るという内容だ。 主人公・冴子にもかつて失踪した父がい…

【読書・人文書】読書について (光文社古典新訳文庫) ショーペンハウアー (著), 鈴木 芳子 (翻訳)

トルストイ、カフカ、トーマス・マン、ニーチェに称賛された、あるいは影響を与えた著者の手によるアフォリズムが織り込まれた哲学小論集。 怠惰な読書は、能動的に磨き上げた思考に劣ると述べた「自分の頭で考える」、文体の乱れが思考と品位に影響を与える…

【読書・人文書・世界史】十二世紀ルネサンス (講談社学術文庫) 伊東 俊太郎 (著)

世界史における一地方に過ぎなかったヨーロッパの躍進のきっかけを描く。 ギリシャ、ローマの知識は決してヨーロッパ全土に直線的に受け継がれたのではなく、その直接の後継者はアラビア・イスラム文化だった。中世の知識人たちは異文化の知識を吸収しようと…

【読書・海外文学】あしながおじさん (光文社古典新訳文庫) ウェブスター (著)

本作は、孤児のジェルーシャ(ジュディ)が、謎の紳士ジョン・スミスの経済的援助を受けて女子大に進学し、才能を開花させてゆく物語だ。 本文はジュディによるスミス氏(あしながおじさん)への「月に一度のお礼状」の文面という形式をとる。 孤児院で最年…

【読書・海外・紀行】英国一家、フランスを食べる マイケル・ブース (著)

技術的には未熟ながら、料理への熱意は人一倍ある英国人ジャーナリスト、マイケル・ブースは、フランス料理文化の守り手と名高い名門料理学校「ル・コルドン・ブルー」のパリ本校への入学を決意する。そして妻と二人の子どもとともに、パリへ移住する。 著者…

【読書・海外文学】寄宿生テルレスの混乱 (光文社古典新訳文庫) ムージル (著), 丘沢 静也 (翻訳)

舞台は良家の子息の集まる寄宿学校。 寄宿生テルレスは、 宮廷顧問官の息子。空想しがちで、空き時間には授業で扱った「無限」や「虚数」といった数学上の概念を少年なりに真面目に検討してしまい、決まって最後にはメモリがパンクしてしまうような少年だ。 …

【読書・国内・エッセイ】ねにもつタイプ (ちくま文庫) 岸本 佐知子 (著)

まるで著者の性格を一言で表したかのようなタイトル(本人は文中で否定しているけど)に、日常生活で感じるよしなし事が綴られた文章。 こうした構成の本を読むと、脊髄反射的にエッセイ集の類なんだろうなぁと分類してしまう。 しかしエッセイだと決めてか…

【読書・人文書・心理学】ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) ダニエル・カーネマン (著), 村井章子 (翻訳)

ノーベル経済学賞受賞者が著した、人間の認知と思考の癖を紐解く一冊。 瞬時の判断を司る「速い」思考と、論理的判断を司る「遅い」思考の特徴についての記述が興味深く、 これまで漠然と感じていた、自分自身を含めた人間一般の思考の癖(手元にある情報か…

【読書・海外文学】天使も踏むを恐れるところ (白水Uブックス―海外小説の誘惑) E.M. フォースター (著), 中野 康司 (翻訳)

天使も足を踏み入れるのを恐れるところに、愚か者は飛び込む───。 本書のタイトルは、アレクサンダー・ポープによる有名な格言が元になっているそうだ。読み終わって始めて、この格言の意味がわかった。 裕福で世間体を重んじるイギリス中産階級の一家と、経…

【読書・海外文学】死の家の記録 (光文社古典新訳文庫) ドストエフスキー (著)

「地下室の手記」以来の惹きつけられる読書体験。美しい悪夢を見て、ぐったりと疲れて目覚めたときのような読後感に浸れる。監獄の灰色の日常の中で異彩を放つ降誕祭の場面、特に囚人たちによる演劇のシーンと、読んでいるこちらまで少し後ろ髪を引かれるよ…

【読書・海外文学】イー・イー・イー タオ・リン(著)

「優雅な読書が最高の復讐である」に載っていた訳者の山崎まどかさんの解説を読んで興味を持ったので読んでみる。 身の回りの誰かを思い出す、不毛さと鬱屈した感情の洪水だった。登場する「イルカ」はなんとなくWindows XPの例のイルカ(人によっては見てい…

【読書・海外文学】城 (新潮文庫) フランツ・カフカ (著)

永遠によそ者を拒み続ける「城」の見下ろす村で、主人公Kが翻弄され、爪弾きにされていく物語である。不条理文学というといかにも堅苦しく聞こえるが、自分になんら落ち度がないはずであるのに、周囲の人間からの圧力によって、自分の意志を捻じ曲げざるを得…

【読書・人文書】ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者 (中公新書) 矢野久美子 (著)

アーレントの生涯を通じて、その思索を辿る一冊。 民主主義国家が全体主義に陥る過程は、決して一度きりの悲劇ではなく、戦後の世界でも起こりうる問題であること、 個人を結びつける世界がなくなり、その関係性が「砂漠化」することが、全体主義による人々…

【読書・人文書・世界史】イブン・ジュバイルの旅行記 (講談社学術文庫) イブン・ジュバイル (著)

書記イブン・ジュバイルのメッカ巡礼記。巡礼の最中目にしたものの記述で面白かったのは、エジプトの「ピラミッド」と「老婆の城壁」に関する箇所。 ピラミッドについては、その正体を「コーランに登場する古代のアラブの部族長とその子孫の墓」と考える者が…

【読書・国内文学】カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫) 安部公房 (著)

「砂の女」の原型となった「チチンデラ ヤパナ」や、方舟さくら丸」のプロローグ的短編「ユープケッチャ」などを含む短編集。 印象的だったのは、結婚相談で出会った男が、太古の地球を再現した閉鎖空間内で子どもを養っている…という「子供部屋」と、娘との…

【読書・人文書】暴力の人類史 上 スティーブン・ピンカー (著)

気鋭の心理学教授が「暴力」の側面から概観した人類史を扱う一冊。著者の主張は大きく分けて以下の二点。 ・その歴史を通じて、人類全体であらゆる種類の暴力(個人間も、集団間も)は減少してきている。 ・また、テロや紛争による被害の実態は、現代の悲観…

【読書・エッセイ】やがて哀しき外国語 (講談社文庫) 村上春樹 (著)

著者には、もっと超然として必然的な選択の結果としての人生を送っている印象を持っていた。 だがこの本の中で語られた内容によると、著者はこれまで度々行く手に困難が予想される選択肢を選び取っているばかりか、作家人生のはじまりはまったくの僥倖だと考…

【読書・国内文学】もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵 椎名誠(著)

のちの昭和軽薄体の片鱗が見える表題作。 東ケト会シリーズファンにはお馴染みの“活字中毒患者”目黒さんが、武術の使い手であり(ここからもう面白い)、口論の末に著者をのしてしまうのが冒頭。その報復に、活字中毒の治療と称して著者の叔父貴の家の味噌蔵…

【読書・国内文学】女のいない男たち (文春文庫 む 5-14) 村上 春樹 (著)

いろんな事情で女性に去られてしまった / 去られようとしている男たちを題材とした短編集。 風変わりな友人"木樽"とその恋人の関係を通じて、青春の孤独のほろ苦さを感じる「イエスタデイ」、妻に去られ始めたバーに訪れる、捉えどころのない神秘的な"カミタ…

【読書・ビジネス書】鬼速PDCA 冨田和成 (著)

社会人の基礎知識と言われるPDCAサイクルを効率的に回し、課題解決と目標達成に至る方法を述べた本。流し読みに近いが、各段階の方法論が非常に具体的で、再読したいと感じた。 また、この手の本は方法論の実践については、ケースバイケースを考えずに役に立…

【読書・ビジネス書】なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である 中島聡 (著)

時間内に仕事が終わらない理由を指摘し、改善策として2割の時間に全力疾走で8割の仕事を終わらせる(ロケットスタート)+ 8割の時間で流しつつ質を高める(スラック=余裕、たるみ)という方法を提案している。 本書では「期限を守ること」を最重要に考えてお…

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568) フィリップ・K・ディック (著)

amazon prime オリジナルドラマが面白かったので、原作を読んでみた。 舞台は第二次大戦で枢軸国側が勝利した世界。日独により分割されたかつての合衆国で、日本、ドイツ、イタリア、アメリカ、そしてユダヤにルーツを持つ人々の運命が交差する。 この並行世…