イタズラ電話

海外・国内文学、人文、自然科学などのジャンルを中心とした読書の感想を綴ります。光文社古典新訳文庫、平凡社ライブラリー、講談社文庫、ちくま学芸文庫などが多めです。時たま、古墳散策とタイピングについての記事も。

【読書・ビジネス書】鬼速PDCA 冨田和成 (著)

社会人の基礎知識と言われるPDCAサイクルを効率的に回し、課題解決と目標達成に至る方法を述べた本。流し読みに近いが、各段階の方法論が非常に具体的で、再読したいと感じた。

また、この手の本は方法論の実践については、ケースバイケースを考えずに役に立たない正論を押し付ける印象があって敬遠していたのだが、この本では臨機応変で柔軟な対応策が示されていて好印象だった。

ところどころ著者の企業に関する手前味噌の味噌漬けのような(?)記述があるが、著者の熱量が伝わる内容なので、無関係な一般読者もモチベートされるとは思う。

鬼速PDCA

鬼速PDCA

 

 

【読書・ビジネス書】なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である 中島聡 (著)

時間内に仕事が終わらない理由を指摘し、改善策として2割の時間に全力疾走で8割の仕事を終わらせる(ロケットスタート)+ 8割の時間で流しつつ質を高める(スラック=余裕、たるみ)という方法を提案している。

本書では「期限を守ること」を最重要に考えており、〆切直前のラストスパートの悪弊には枚挙に暇がない。さらには安請け合い、見積もりの甘さ、〆切直前の精神的圧迫感による生産性の低下など、学生視点でも頷ける事柄ばかりだ。

 自分の体験と照らし合わせても納得の内容で、これまでの研究姿勢を振り返り、身につまされる思いで読みきった。

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568) フィリップ・K・ディック (著)

amazon prime オリジナルドラマが面白かったので、原作を読んでみた。

舞台は第二次大戦で枢軸国側が勝利した世界。日独により分割されたかつての合衆国で、日本、ドイツ、イタリア、アメリカ、そしてユダヤにルーツを持つ人々の運命が交差する。

この並行世界において、連合国側が勝利した世界を描いた本が出回るという二重の構造が描かれている。

印象的だったのは日本人夫妻と白人古物商・チルダンの晩餐のシーン。慇懃に振る舞おうと努力しつつも人種の違いから生じるルサンチマンがにじみ出ている。映像作品でも同様のシーンがあり、非常に印象的だった。

この世界では、大きな選択に迫られたときは、社会的地位の高い者も低い者も「易経」にすがるのだが、神秘的を通り越してややコミカルでさえある。 

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

 

 

命 (新潮文庫) 柳 美里 (著)

消えゆく命と生まれつつある命の間でもがく作家・柳美里の葛藤が綴られた一冊。

特に印象的だったのは、かつての恋人であり、精神の支えでもある東由多加氏による、痛々しいまでのサポートだ。 

命 (新潮文庫)

命 (新潮文庫)

 

緋色の研究【新訳版】 (創元推理文庫) アーサー・コナン・ドイル (著), 深町 眞理子 (翻訳)

推理小説というジャンルを確立したとも言える古典作品で、「シャーロック・ホームズ」シリーズの第一作にあたるようだ。

ホームズの言行録は半分程度で、残り半分は解決編にあたる第二部に当てられている。第二部は一見すると冒険活劇のようなテイストで急展開に驚かされるが、やがて物語は犯人が凶行に及ぶに至った背景に収束しており、単なる怪奇殺人に止まらない犯人の心情に迫る緻密な背景描写がなされている。

ちなみに表題はホームズ曰く美術用語からの転用とのこと。

「人生という無色の綛(かせ)糸の中に殺人という緋色の糸が紛れ込んでいる...」のくだりを読んで、なんとなく一昔前のテレビドラマ「古畑任三郎」のオープニング映像を思い出した方も多いのではないだろうか。

解説は高山宏という豪華さも嬉しい。なお、解説の本文によると高山宏はホームズの登場シーンを見て、「科捜研の女」を思い浮かべたらしい...。

 

緋色の研究【新訳版】 (創元推理文庫)

緋色の研究【新訳版】 (創元推理文庫)

 

 

 

蠕動で渉れ、汚泥の川を (角川文庫) 西村 賢太 (著)

まだ藤澤清造作品も秋恵の存在も知らない頃の、痛々しくも切ない、貫多・青春編。

17歳にして、小心者でありながら根っからのスタイリストな人格は完成済み(?)。

貫多ものの作品では毎度のことながら、貫多と周囲の人々の、危うい感情のキャッチボールは、読んでいて冷や汗ものだ。

結句破局を迎えるとわかっている物語に、つい引き込まれてしまうのは何故なのだろう。

 

 

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫) 村上春樹 (著)

ノルウェイの森の雰囲気を感じる「蛍」(あの「突撃隊」風の、同室の青年には懐かしささえ感じてしまった)、村上作品には猫より多く出ているんじゃないかと感じる『僕だけが正体を知っているサイコパス』的登場人物が印象的な「納屋を焼く」、ファンタジックだが不気味な余韻を残す「踊る小人」が印象的。

って、ほぼ半分ですけど。

「三つのドイツ幻想」は、理由はわからないが高橋源一郎っぽいなーと感じた。小説ではなくエッセイの方である。

 

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)