イタズラ電話

海外・国内文学、人文、自然科学などのジャンルを中心とした読書の感想を綴ります。光文社古典新訳文庫、平凡社ライブラリー、講談社文庫、ちくま学芸文庫などが多めです。時たま、古墳散策とタイピングについての記事も。

【読書・海外文学】あしながおじさん (光文社古典新訳文庫) ウェブスター (著)

本作は、孤児のジェルーシャ(ジュディ)が、謎の紳士ジョン・スミスの経済的援助を受けて女子大に進学し、才能を開花させてゆく物語だ。

本文はジュディによるスミス氏(あしながおじさん)への「月に一度のお礼状」の文面という形式をとる。

 

孤児院で最年長の少女、ジェルーシャ・アボットに、何度目かの憂鬱な第一水曜日が巡ってきたある日の場面から、物語は幕を開ける。鬱々とした生活を送っていたジェルーシャの元に、突然のグッドニュースが舞い込んでくる。

それは、ジェルーシャの作文を気に入った孤児院の評議員のジョン・スミスなる人物が、大学進学のための学費と寮費として月35ドルの支給を申し出たという知らせだった。

ジェルーシャは、その見返りに月に一度のお礼状を出すことを求められる。こうして、ジョン・スミス氏こと「あしながおじさん」との一方通行の手紙のやりとりが始まる。

 

与えられた好機に感謝し、ジェルーシャは自由な学生生活の出来事を逐一報告してくる。バスケの選抜チームに選ばれたこと、友人を級長に当選させるべく「政治活動」に励んだこと、バニラ風味の牛乳ゼリー(通称「墓石」)のことなどだ。初めて知った自由な世界の喜びに満ち溢れた手紙からは、ジェルーシャの弾む気持ちが伝わってくる。風変わりな「ジェルーシャ」という名前ではなく、「ジュディ」と名乗り始めるのもこの頃だ。

かと思えば、返信のないおじ様への不満が次第に募りはじめ、手紙に書いた質問の答えが欲しいと駄々をこね、不機嫌さをあらわにしては、その後で後悔してみたりもする。

また、発見の連続の日々を楽しみながらも、自分とは対照的な上流階級育ちを鼻にかける仇敵、ジュリアには冷ややかなコメントをしたためている。

ジュリアの母親はラザフォード家の出身なんだそうです 。ラザフォード家はノアの方舟に乗ってやってきた家系で 、ヘンリー八世と姻戚関係があるんだそうです 。父方の一族はアダムより古い家系らしいです 。ジュリアの家の家系図のてっぺんには 、絹みたいにつややかな毛のはえた特別にしっぽの長い上等な種類のサルが座ってるんでしょうね 、きっと 。

やがて、周囲の学生と比べて教養が足りないことを気にしたジュディは本の虫となり、古典名作を読みふけってみたりもする。ショートストーリーコンテストで最優秀の成績を修めてからは、作家としての将来に憧れを抱くようにもなる。だがその後、女優、孤児院の院長、学校の先生と、入れ替わり立ち代わりに将来像は揺らいでいく。

一時期は、作家として名を馳せることを夢見ることもあったがジュディだが、やがてそういった立身出世の願望は影をひそめていくことになる。「小さな幸せを積み上げる」という幸福についてのある種の選択について綴られた手紙は、本作の中でも特に印象的だった。

また、成長していくにつれて、いつまでも正体を現さない「あしながおじさん」との関係についても不満を述べることが増えていく。特に、成績優秀者向けの奨学金を受給することを認めてもらえないことがわかったときには、その不満はピークに達し、反抗心があらわな手紙が届くようになる。だが、実は「あしながおじさん」の正体は...。

 

ジュディの天真爛漫な一面が溢れる文章を読んでいると、ページを捲る手が止まらず、一気に読み終えてしまった。多感な少女の成長を見守るような読書体験は、読者の皆さまの予想通りの(?)ハッピーエンドのもと幕を閉じる。

当時の時代背景を考えれば、ジュディはこれ以上はない幸福を手にしたことになるのかもしれないが、昨今の女性の社会進出という視点から見つめ直すと、いろいろと疑問点も生じるのかもしれない。女性読者の意見も聞いてみたいところである。

 

あしながおじさん (光文社古典新訳文庫)

あしながおじさん (光文社古典新訳文庫)

 

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