イタズラ電話

海外・国内文学、人文、自然科学などのジャンルを中心とした読書の感想を綴ります。光文社古典新訳文庫、平凡社ライブラリー、講談社文庫、ちくま学芸文庫などが多めです。時たま、古墳散策とタイピングについての記事も。

【読書・国内文学・ホラー・SF】エッジ 上 (角川ホラー文庫) 鈴木 光司 (著)

「リング」シリーズでおなじみの著者による、2013年のシャーリイ・ジャクスン賞受賞作。

日本各地で発生する大量失踪事件について、ルポライター栗山冴子とテレビ局ディレクター羽柴が事件の真相に迫るという内容だ。

主人公・冴子にもかつて失踪した父がいる。片親の冴子にとって心の拠り所であり、理想の男性像でもある父の失踪は、冴子の心に深い影を落としていた。だが二人が事件の真相に迫るにつれて、冴子の前には失踪する直前の父の足跡が見え隠れしてくる。

物語の背景には、量子力学における波動関数の収縮や、人間原理アインシュタインとボーアの論争といった科学的知識が散りばめられている。観測者と宇宙の相互関係、あくまで人間の言葉である数学によって物理法則を記述できる不可思議さなど、世界の成り立ちについての著者の深い関心が伺える内容だ。

また、個人的には羽柴の出身地である三島や、物語の核心部分に近づくきっかけとなる熱海など、地元が頻繁に登場にするのが嬉しい。そういえば「リング」シリーズでも、貞子の曰く付きの井戸の所在地は伊豆だったと記憶しているが、著者は静岡県東部に何らかのゆかりがあるのだろうか?

冒頭で描写された世界崩壊の不気味な兆しが、本編とどのように関連していくのかに注目しつつ下巻へ進む。

 

エッジ 上 (角川ホラー文庫)

エッジ 上 (角川ホラー文庫)