イタズラ電話

海外・国内文学、人文、自然科学などのジャンルを中心とした読書の感想を綴ります。光文社古典新訳文庫、平凡社ライブラリー、講談社文庫、ちくま学芸文庫などが多めです。時たま、古墳散策とタイピングについての記事も。

【読書・海外文学】城 (新潮文庫) フランツ・カフカ (著)

永遠によそ者を拒み続ける「城」の見下ろす村で、主人公Kが翻弄され、爪弾きにされていく物語である。不条理文学というといかにも堅苦しく聞こえるが、自分になんら落ち度がないはずであるのに、周囲の人間からの圧力によって、自分の意志を捻じ曲げざるを得ない状況というのは、誰の人生にも起こりうることだろう。カフカの作品を読むことで、気づかされることは多い。

本作で特に印象的だったのは、終盤のペーピーの長い独白だ。 Kとフリーダの奇妙な同棲は、人格を認め合うのではなく、単にお互いを近づきがたい城へのコネクション(=フリーダ)と、自らを汚すに相応しい、最も下等な相手(=K)と見なすことで取り持たれていたという指摘が、鳥肌ものだった。

前田敬作さんのあとがきも明快だった。自己疎外される現代社会の不条理を看破したのは、永遠の異邦人とされたユダヤ系のカフカマルクスである。

 

城 (新潮文庫)

城 (新潮文庫)