【読書・人文書】翻訳地獄へようこそ, 宮脇孝雄(著)
ロンドンのホテルで 、ボ ーイ長がアメリカ人の客にいった 。 「リフトはまもなくまいりますので 、お待ちください 」するとアメリカ人の客はいった 。 「リフト ?あ 、エレベ ータ ーのこと 。あれはね 、アメリカで発明された物なんだから 、エレベ ータ ーというのが正しいんだよ 」 「はい 、ですが 、あなたさまがお使いの言葉は英国で発明された物ですので 、リフトと呼ぶべきでございます 」
海外文学を読むと、素人ながら翻訳の苦労に思いを馳せることがある。また、古い翻訳モノを読んでいると一つや二つは意味が掴めないがスルーしても差し支えないような箇所がある、という方も多いだろう。
本書では経験豊富な翻訳家である著者が、翻訳文学を読んでいて疑問に思った表現を一つ一つ取り上げ、その背景に潜む愉快な事実を取り出してくれる。その手腕はまるで名探偵のよう。どうやら翻訳の世界でも「細部にこそ神は宿る」ようだ。
特に興味深かったのは、最近英語圏の読者らに好まれるようになったツイート内容程度の短い小説についての箇所だ。個人的にはデイリーポータルZの小説の書き出し部分だけを投稿する「書き出し小説大賞」を思い出した。
あえて物語の転結にあたる部分を省き、読者の想像力にゆだねるというこれらの作品を、著者はスパムメールの文面と比較していいる。*1
前回のエントリーはこちら。
*1:たとえば「憶えてる ?また会えるかな 。さゆりより 」などというような文面。