社会人日記1
今日は職場でストが起きた。
珍しくもない。半年に一度はストが起こる。大体は社員のストレス発散程度のもので、理念も何も感じられないただの暴動だ。
「書類を燃やせ!」
中庭の巨大な焚き火を囲み、老いも若きも歓声を上げる。
木簡が次々と火に投げ込まれていく。ぱちぱち、パキン、乾いた音をたてて形を失う。
投げ込まれた木簡に見慣れた字が見え、思わずあっと声をあげた。
距離があっても見間違えるはずがない。先輩の字。
一人で残業している時、誰よりも早く出勤した時、紐にずらりと通してある木簡の列から的確に見つけ出して、そっと撫でていた先輩の書いたもの。
先輩の長い髪と同じ色の墨で書かれた流れるような字。
先輩は知らない社員達(組合の人たちだろう)と肩を組み、見たことのないような顔をしていた。長い睫毛が火を映す瞳に影を落としている。
化粧が落ちているのも気にしない様子だったが、先輩はとても綺麗だった。
火の中からは時たま甲高い断末魔も漏れてくる。
木簡にたかっていた鼠たちだろう。
先輩の木簡も、木簡を齧りにくる鼠たちも、私は好きだった。
明日になれば、皆粛々と始末をして日常の仕事に戻るのだろう。
そう思いながら私は消し炭となった先輩の木簡を拾いあげた。
もろもろと崩れるそれは、囓ると泣きたくなるくらい苦かった。